AIとコンピュータービジョンが実現する未来の小売業

小売業界は過去数年の間に、オンライン取引の増加、店舗のデジタル化、労働力の変動、顧客の好みの変化など、様々な変化に直面しました。このような変化によって、実店舗のイノベーションが進むとともに既にあった動きがさらに加速する現象さえ見られました。

このような進歩したテクノロジーの中で、小売業界から多くの注目を集めているのが人工知能 (AI) であり、特に顕著なのが、ネットワークカメラに内蔵されたスマート分析利用です。AIの一分野であり、カメラで対象を「見て」、デジタル画像から有意義な知見を得ることができるコンピュータービジョンは、小売業界を変革する可能性があります。この技術は小売業者にとって最大の課題である損失防止、人員配置、サステイナビリティ、在庫管理などの解決に必要なデータや知見をもたらすだけでなく、ショッピング体験の改善にも役立つ可能性があり、これらを1つのシステムで実現することができます。

 

リアルタイム分析で損失を防止

小売業界は相変わらず損失防止という大きな問題を抱えています。NRF(アメリカ小売業協会)のレポートによると、万引きや内部犯罪によって商品が盗まれ、在庫数が減少す2021年の平均発生率は1.4%であり、同年の小売業の総売上高から換算すると945億ドルの損失に相当します。これは、小さな数字ではありません。セルフレジなど、店舗環境で窃盗が起こりやすい場所を特定して、この問題に対処することが極めて重要です。

顧客は様々な手口で支払いを逃れようとし、店員に見られていなければ、誘惑に駆られやすくなります。とはいえ、このような決済方式をなくすと支障が生じます。セルフレジには多くのメリットがあるからです。セルフレジによって待ち時間が短縮され、顧客体験が向上する可能性もあります。

2023年にGitnux調査によると、有人レジよりもセルフレジの方がよいと回答した消費者は73%に達しています。セルフレジの採用が今後も続くと予想され、窃盗リスクの低減が極めて重要になります。

対策としては、セルフレジがある場所にコンピュータービジョンと高度な分析ソフトを搭載したカメラを設置して、商品のスキャン逃れやバーコードを覆い隠す等、不審行動を検出し、その時点で保安スタッフに通報し調査や介入に当たらせます。

またAIを利用してセルフレジのプロセスに関する知見を収集し、パターンを特定してどのように窃盗が起こるかより詳しく解明し被害を削減収益がプラスに貢献できる対策を実施できるようになります。

 

店舗運営と顧客体験への対応

利便性は顧客にとって優先度が高く、店舗の営業時間の延長や、購入にかかる労力の削減は特に重要です。これは、自動化と先進技術を効果的に利用することで達成できます。ソフトウェアを搭載したネットワークカメラを使用して、商品補充や来店客数のモニタリングなど店内プロセスを管理することによって、接客の質を上げることができます。繁忙期には特に重要です。

技術を利用して、店員がいなくても商品を見て購入できる、よりハイブリッドな店舗モデルに転換する流れも生じています。営業時間の延長で顧客は都合のよい時間に来店することができます。この場合も、コンピュータービジョンを利用し店舗に関する知見を入手することができます。AI機能を搭載したネットワークカメラを使用して、商品を買い物カゴに入れるタイミングや、店内どこでどれくらいの時間を費やしたか、ボトルネックとなる場所がどこなのか、さまざまな店内行動を追跡することができます。こうした情報を基に、顧客体験のアップデートを行うことができます。

 

在庫管理のアップグレード

顧客が非常に大きな不満を感じる原因の1つが欠品であり、収益の損失にもつながります。一定の場所で一定の時間に購入可能な商品の数を調査した、店頭での在庫状況に関するNielsenIQの分析によると、米国の小売企業は2021年だけでも、店頭での在庫切れが原因で820億ドルの売上を逸しています。これは、回避できたはずの損失です。

従来は、スタッフが一日の決まった時間に陳列棚の商品数を手作業でチェックし、商品を補充するという方法が採られていましたが、不足の発見から補充までの間に時間差があれば、販売機会が失われる結果になりかねません。人気商品の場合はなおさらです。

コンピュータービジョンは、このような状況で役に立ちます。小型組込み型、または単独型カメラで陳列棚を撮影すると同時に、機械学習、画像処理アルゴリズムで在庫の有無や配置に関するデータを分析します。数量が減り補充が必要だと検知されると、ダッシュボードやモバイルアプリにリアルタイムでアラートを送信し、特定の品目を補充するよう、スタッフに指示します。このようにスピードと柔軟性を高めることにより、顧客の需要に応じた在庫レベルを常に確保することができます。

 

AIを利用したサステイナビリティ目標の到達

AIを利用したサステイナビリティ業務効率や収益性を考えると、店舗環境でコンピュータービジョンとAIを利用することによって直ちに生じるインパクトは想像できますが、これらの技術を利用してサステイナビリティを向上させることもできます。

AIで在庫状況をモニターし、需要に直ちに対応することによって、廃棄処分されるおそれのある余剰在庫の削減に貢献できます。また、AI予測ツールを利用して在庫管理を改善し、温室ガス排出率をモニタリングしてカーボンニュートラルの目標達成に役立てることができます。AIは店外でも有益です。物流ネットワークでの商品納入の正確性を高め、トラック積載量を最大化し温室ガス排出量の増加につながる不要な運送を回避することができます。

 

小売業の未来を支える分析

ビデオ監視におけるAIのポテンシャルは有望です。コンピュータービジョンを搭載したネットワークカメラによってビデオ解析機能が強化され、脅威の検知、動体検知、物体認識に加えて、店内行動をより詳しく解明することができます。

その結果、スタッフが質の高いサービスに集中できるようになり、顧客体験が改善されリピート客が増えブランドへの愛着やロイヤリティ頼が高まります。AIを利用してトレンドや顧客の好みを予測することもできるため、在庫、販売キャンペーン、商品の発売を効果的に計画することができます。サステイナビリティ目標の達成の補助手段としても有効です。この技術で入手した知見を利用して、廃棄物を最小限に抑え物流を最適化できる可能性があります。

AIには非常に多くのメリットがありますが、データを収集し分析する活動と同様に、プライバシー侵害問題や技術悪用のおそれなど、倫理上の懸念事項について、技術導入に先立って考慮することが重要です。これは、絶え間なく進化する、現在進行中の問題であり、安全とセキュリティの確保にとどまらず、ビジネス上のメリットを求めて監視システムに変更を加える際には、避けて通れない問題です。監視システムでAIを利用すると、最終的にビジネス判断力が強化され、長期的な収益の増加が可能になります。

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