新たなパワーを手にした小売業

Jody BishopJames Stark

次世代コンピュータービジョンがもたらす桁外れの能力と知見

「知識は力なり」という古い格言は、今なお昔と同じように真実です。個人も、組織も、正確でタイムリーな情報で対応すれば、より的確な判断を下すことができるのは明らかです。先進技術が主要な役割を果たすようになり、小売業と顧客の意志決定をリアルタイムデータを通じて支援しています。その結果、ビジネスの効率が向上し、カスタマーエクスペリエンスが改善されています。

データ分析から導き出される知見によって、トレンドを特定できるようになり、業績評価指標 (KPI) がより正確な判断基準になった結果、企業運営に変化が生じています。今までは、最高クラスのシステムでも、報告されるデータと現実との間に一定の時間差がありました。特に、在庫の回転率が高い食料品小売業においては、この差が大きな問題でした。店舗の状況がリアルタイムで分からないと、陳列棚が空になったり、商品が誤った場所に放置されたり、顧客向けのモバイルアプリに不正確な在庫情報が表示されるなど、さまざまな問題に悩まされかねません。こうした問題は、カスタマーエクスペリエンスを損ない、業務効率と収益性の低下を招きます。

 

リアルタイム小売

人工知能 (AI) のサブカテゴリーの一つであるコンピュータービジョンは、視覚的な世界をコンピューターを使用して、人間と同じやり方で分析、解釈する技術であり、これによって、小売業界に革命的な変化が生じています。最近までは、限られた分野でしか使われていなかったコンピュータービジョンですが、AIの進歩とともに躍進しています。小売業は、コンピュータービジョンによって、「今、この時点における」店舗や陳列棚の状況について、極めて正確な知見が得られるようになりました。コンピュータービジョンは、24時間年中無休で1つ1つの陳列棚を監視し、「見えた」ものを正確に判断して、ライブ情報や通知を、店舗スタッフ、統合型ビジネスシステム、さらには、オンラインショッピングサイトや店内のセルフサービスレジ端末などの顧客向けテクノロジーに提供することができます。コンピュータービジョンは、陳列棚に商品を補充すべきか、売場を整頓する必要があるか、商品の値札が取れていないかなど、さまざまな状況を判別します。

 

AIを搭載したソリューション

米国のスーパーマーケットには、総計2万2,500 km以上の陳列棚スペースがあり、10億以上のSKU (商品の最小管理単位) が陳列されています。一つの店舗だけでも、すべての陳列棚を撮影した映像を瞬時にAIで処理するのは気が遠くなるような作業ですが、現在、コンピュータービジョン技術によってそれが可能になっています。Google Cloudの新しい陳列棚確認用AIテクノロジーは、あるべき商品が陳列棚に確実に並んでいるようにするために、同社の巨大なデータベースと洗練されたアルゴリズムを高性能なネットワークカメラと併用し、何十億もの商品をすばやく認識します。

ネットワークカメラは、陳列棚の高解像度映像を処理し、高圧縮データストリームに変換します。このデータストリームがクラウドに送信され、あらゆる種類の商品が視覚的な特徴や文字に基づいて分析、識別されます。様々な角度と視点から撮影された多様な画像を使用して、商品を識別することができます。実際、自動チェック用のAIには、天井に設置したカメラや店舗スタッフの携帯電話で撮影した映像など、様々なタイプの映像を非常に柔軟に供給することができます。

小売業はコンピュータービジョンを利用して、特定のブランドの商品群が陳列棚に10箱並んでいるか、それとも11箱並んでいるかを区別することができ、商品がきちんと並べられていない場合には、それを特定することもできます。また、陳列棚に貼られたバーコードが、その上に置いてある商品と一致しないという状況を検知することもできます。買い物客が手に取った商品を別の場所に戻した場合には、複数の場所で確認を行い、商品の数を照合することができます。コンピュータービジョンは拡大する可能性あるパワーの様なものであり、小売業は、店舗のあらゆる部分を見て、従来よりはるかに状況を詳細に把握できるようになります。

 

意思決定の基となる知見

この技術は、情報に基づいて行動を起こすことができる人やシステムとも知見を共有することによって、真の価値を提供します。たとえば、現場や現場外のスタッフにテキストメッセージで通知したり、ダッシュボードを通じて報告を行ったり、在庫管理プラットフォームなどのソフトウェアにプッシュ通知を行ったりすることができます。通知を使用して、他のオペレーションやセキュリティ技術の自動応答を起動することもできます。

このソリューションは、変則的な状況を理解するだけでなく、特定の状況を理解するようプログラムすることもが可能です。例えば、店舗の管理者は、特定の商品が一定の残り個数に達した時点で知らせるように設定したり、顧客が手を伸ばしにくい一番上の棚にすべての在庫品が固まっている状況を特定したりすることができます。インテリジェンスによって、欠品や、誤った場所にある商品について推測で行動する必要がなくなるため、販売を最適化し、より正確に収益性を測定できるようになります。

 

健全な収益力

絶えず増加するデータ、進化を続けるアルゴリズム、エッジとクラウドのハイブリッド型プラットフォームの能力向上により、小売業は、コンピュータービジョンによって変貌をとげようとしています。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行後、サプライチェーンの問題、労働力不足、顧客の期待の高まりが明らかになりましたが、小売業にとっては、今が絶好の時期と言えるでしょう。コンピュータービジョンは、小売業がこうした課題に打ち勝つための強大なパワーです。コンピュータービジョン技術は、陳列棚スペースの最適化や在庫管理に必要な知見を提供するだけでなく、スタッフ配置の管理や顧客満足度の向上に貢献し、最終的に小売業の収益力を強化します。

 

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