増加する小売店に対する組織的犯罪(ORC)の問題

小売業における犯罪は、店舗のスタッフと通じた単独犯か、スタッフ自身による小規模な万引きを思い浮かべがちです。しかし、小売店に対する組織的犯罪 (ORC: Organized Retail Crime) の問題は拡大しており、小売サプライチェーン全体で発生する犯罪のうち、影響の大きさでは万引きを上回るおそれがあります。

AxisのリテールビジネスマネージャーであるHedgie Bartol は、Wicklander-Zulawski & Associatesの社長であるDave Thomson, CFI にインタビューを行い、ORCと小売業への影響について詳しく調べました。Daveは、犯罪調査と小売業界のサポートにおいて15年以上の経験があり、このテーマについて優れた知見を有しています。

Hedgie Bartol (以下、HB) : ORCは、かつてないほど深刻な問題になりつつあるようです。全米小売業協会 (National Retail Federation) が発行したORCレポートによると、65%の小売業者が、5年前よりも現在の方がORCに注意を向けるようになったと回答したと述べています。あなたもそう思いますか? その背景にはものがあるでしょうか?

Dave Thomson, CFI (以下、DT): まったくその通りです。ここ数年、小売業のサプライチェーン、倉庫、オムニチャネルに関わる犯罪の中で、ORCが大幅に増加しています。貨物の盗難をはじめとしたサプライチェーン犯罪の影響は、年々増加しています。オムニチャネル犯罪の多発と、小売企業がデジタル通貨を受け入れるようになったことで、犯罪の発生場所が容疑者の所在地に依存しなくなったため、ORCはグローバル化しました。小売企業と警察が、世界を股にかけて事件を立件しようとすれば、司法管轄区域をめぐって悪夢のような事態になります。

多くの小売企業と警察が見るところ、ORCが増加した背景には、抑制的な政策や、この種の犯罪の非犯罪化が原因として挙げられます。小売企業は万引き犯に対してより寛容なアプローチを取っており、立ち入り禁止を申し渡すガイドラインはありますが、刑事責任までは問わないという場合が多くあります。一部の管轄区域では、重罪と見なされる犯罪の閾値が上がり、軽犯罪である万引きの優先順位が低いため、警察はあまり関与しません。犯罪が起訴されないことが、さらなる犯罪を多発させる要因になっているおそれがあります。

HB: パンデミックがORCに影響を及ぼしているという報道を見かけました。どのような影響でしょうか?

DT: パンデミックをきっかけにORCが増加した原因はいくつかあります。パンデミック中、プロセスの内部で対面的に行われる監査やチェックアンドバランスが減ったため、サプライチェーン犯罪やベンダー犯罪が増加しています。移動制限が行われた結果、品質管理や、コンプライアンス部門による不正行為の発見と制裁措置が行われにくくなっています。デジタル犯罪も、パンデミック中に増加を続けています。デジタル通貨での支払いが広く普及していますし、リモートワーク中の従業員がソーシャルエンジニアリングやフィッシング被害に遭いやすい事情もあります。

営業している小売店でも、パンデミック中はさまざまな理由からORCが増加しています。人件費が大幅にカットされたため、顧客サービスでもセキュリティの観点でも人手不足になり、窃盗の機会が増加しています。ソーシャルディスタンス等の規制を理由に、万引き犯の検挙や犯人との近接遭遇を制限している小売企業もあります。明らかに万引き犯が有利な状況が揃ってしまっています。

HB: 小売企業がパンデミックへの適応を余儀なくされたのと同様に、犯罪者たちも「ビジネス」のやり方をパンデミックに適応させたようですね。もちろん、ORCが「エッセンシャルワーク」かどうかなどを心配する必要はありませんが。オムニチャネルとサプライチェーンに関係するORCの例をいくつか挙げていただけますか?

DT: ORCは、店頭や顧客対応が行われる場所に限った問題ではありません。オムニチャネルやサプライチェーンも主要なターゲットであり、ORCグループにとっては、より少ないリスクで大きなリターンが得られる主要なターゲットです。ギフトカード詐欺やデジタル決済詐欺を中心とするORCは日々進化しています。残念ながら、法律はデジタル詐欺の高度化にまだ追い付いておらず、ORCグループは最小限のリスクで多額の金銭的利益を得ることができます。最近では、ORCグループがソーシャルエンジニアリング技術使ってレジ係を説得し、電話でギフトカードを有効化し、世界で何百万ドルの損失を出した事例が数多くあります。不渡り小切手を書く時代から進化して、マネーロンダリングのデジタル化、クレジットカード詐欺、なりすまし犯罪の時代が訪れています。お金の動きがあまりに速く、損失を回収することができません。

世界の市場は、サプライチェーン・ロジスティクスで発生するORCの悪影響を大きく受けています。小売店の配送センターに到着する前に、ベンダーの拠点、運送会社、港湾でも犯罪が行われるおそれがあります。標準化団体BSIと保険会社TT Clubによる最新の業界レポートによると、輸送中の貨物の盗難は、サプライチェーンで発生するすべての盗難事件の71%を占めていると指摘しています。

HB: ORCに関しては、法律がいかに遅れているということにいつも驚かされています。違法ドラッグを詰め込んだブリーフケースを手にして逮捕されれば、厳罰が科されますが、トレーラートラック1台分のフラットスクリーンTVを盗んで逮捕されても、まったく罰せられないことがあります。ORCのネットワークやORCグループの作業の慣例や技法について、いくつかお話しいただけますか?

DT: ORCグループは、地元のメンバーによる小規模なグループから、秩序立った組織構造を持つ犯罪企業まで、その洗練度に幅があります。最も高度に組織化されたグループは、軍隊と同様な命令系統や組織を持っています。通常、このような高度化したグループでは、各メンバーの役割が明確に定義されており、それぞれ異なる「役職」があります。小売店で見かける万引き犯は氷山の一角に過ぎず、大概は組織の最低レベルです。

1回の万引き事件でも、万引き犯本人に加えて、運転手、見張り役、注意をそらす人など、数人が現場で関与している場合があります。ORCグループは通常、ターゲットとするアイテムのリストを持っており、犯行中ずっと、互いに連絡を取り合っています。アプローチは戦略的で、どこから建物に侵入するか、どうやって店員の目をごまかすかを決めています。地理的には、ORCグループは常に移動しており、通常は主要な空港や高速道路に近い場所をターゲットとし、レンタカーや盗難車で移動することが多いです。

HB: 問題の増加を受け、小売企業のポリシーや警察のガイドラインは、どのように進化していますか?

DT: 現在、小売企業、警察、検察官、立法機関などの組織は、ORCを日和見的な万引きとは異なる対処が必要な大きな問題として認識しています。たとえば米国では、重罪と見なすべき被害金額について、各州で精査が行われています。多くの組織が警察やロビー団体と協力して、ORCグループに対する具体的な罪を策定しています。これには、一定期間中の犯罪の集約など、軽微な窃盗や軽犯罪を超えて重い罪を科すことができる諸要因が含まれています。

HB: 小売企業どうしが互いに協力し、ベストプラクティスを共有できるようなネットワークはありますか?

DT: ネットワーク作りの機会は豊富にあります。世界規模では、同じ懸案事項を抱えている複数のクライアントを持つ多くのソリューションプロバイダーが、ネットワーク化のための優れた基盤になります。LP Foundation、ASIS、IAI、CLEARなど、多くの協会がネットワーク化と情報共有を推進しています。米国におけるORCに限って言えば、トレーニングイベント、カンファレンス、情報共有ミーティングを開催し、コラボレーションを促進する地域グループが数多くあります。これらの地域グループに参加することが、ORCとの戦いの転機となる可能性があります。私が所属するWZは、カリフォルニアORCA、ジョージアROC、フロリダ小売連合、ミネアポリスORCA、メトロORCAなど、多くのカンファレンスで講演を行いました。

HB: 情報を共有することが、ORCと戦うための鍵になるということですね。多くの小売企業が団結し、この問題に協力して立ち向かっているのは心強いことです。他の業界ではなかなか見られないのではないでしょうか。ORCの防止と削減のために、小売企業が行える具体的な対策についてお聞かせください。

DT: この問題に取り組むために小売企業ができることは、いくつもあります。まず、ORCの動きを表す主な兆候について、機会便乗的な万引きとの違いも含めて、スタッフを教育することです。顧客サービスや店舗スタッフの存在そのものが、この犯罪に対する最大の抑止力になる場合がしばしばあります。

第二に、テクノロジーを活用して時代の先端を行くことです。RFIDタグ、監視カメラ、顔認証などは、小売企業が投資している分野のほんの一部に過ぎません。テクノロジーの進化、特に監視カメラの進化により、逮捕に先立ってデータを収集し、人工知能を利用して、必要な情報を網羅した包括的な立件が可能になっています。

最後に、他の小売企業、警察、立法機関とのネットワークを構築し、協力することです。情報の共有とネットワークの構築は、状況証拠を結びつけるのに役立つだけでなく、他の組織が使用している調査ツールを学ぶ機会にもなります。

HB: 小売企業はリスクに対処するため、人間による情報収集活動にどのようなテクノロジーリソースを追加していますか?

DT: データ収集と予測分析は、小売企業はセキュリティシステムの弱点を特定し、主な懸念事項の予測に役立ちました。テクノロジーにより、小売企業は損失が最も大きい市場や特定の商品に適切な投資することができます。分析とカメラのテクノロジーを組み合わせることで、小売企業はアラートシステムを利用できるようになり、店舗の担当者がORCの活動をリアルタイムで把握することができるようになりました。

ORC容疑者への尋問を通じて行われる情報収集とテクノロジーリソースを併用すると、起訴に持ち込むにあたり、包括的な立件の準備が可能になります。たとえば、容疑者が尋問で別の容疑者の名前や取引場所の住所などを明かした場合、顔認識、オープンソースインテリジェンス、ビデオ監視の組み合わせにより、犯罪者を特定できます。

HB: Dave、ありがとうございました。お話をうかがえて良かったです。テクノロジーがさらに進歩し、起訴可能なデータをリアルタイムで収集できるようになり、人間の負担が減るにつれ、どのようなORC対策が可能になるか興味深いです。

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