2020年、セキュリティ業界に影響を与える5つのテクノロジートレンド

来年のテクノロジートレンドに関するブログ記事を書き始めるにあたり、いつも去年はどんなことを書いたのか、ひととおり見直すことにしています。自分の未来予測 (常にリスクが伴う行為です) の正確さへの好奇心もありますが、予想もしなかった新しいトレンドが今年一年の間に発生しなかったかを確かめるのは興味深いものです。

昨年の今頃に予想していたトレンドを見直してみると、この一年の間に起こった現実とかなり近いため、比較的満足しています。とはいえ、今後を予測するのであれば、重点を置くべき部分が少し変わってくるような気がします。

 

1: オンザエッジの世界

これは、崖っぷちに立たされている (オンザエッジ) 世界の現状に関する見解ではありません。ネットワークの末端である「エッジ」でのコンピューティングに向けた動きが活発化しているという意味です。すでに何十億ものデバイスがネットワークに接続され、この数字は急増しているという事実。それ自体はニュースでも何でもありません。しかし、そうしたデバイスの性質や需要には、ある重大な意味があります。

簡単に言うと、ネットワークに接続する「モノ」が増えるにつれ、起こりつつある事態を瞬間的に感知し、何をすべきかを判断し、必要な措置を取る能力が重要になります。自動運転車はその良い例です。交通信号など外部環境との通信から得られた情報や、車両の前を横切る物体などのリスクを検知したセンサーから得られた情報など、あらゆる情報を一瞬のうちに判断し、処理することが要求されます。車両からのデータをネットワークに送り、データセンターで解析、処理し、必要な措置についての判断を車両に送り返していたのでは、とても間に合いません。

ビデオ監視についても同様です。反応型ではなく事前対応型、つまり、何かが起こってから対処するのではなく、事件の発生を未然に防ぐことを目指すのであれば、カメラの内部におけるデータの処理と解析がより必要になります。

しかし、ネットワークのエッジに存在するデバイスの数が増え、そうしたデバイスが安全とセキュリティにおいて重要な役割を果たすようになると、必然的に、以下のようなさまざまな結果が生じます。

 

2: 専用デバイスの処理能力

エッジコンピューティングのレベルを上げるには、特定の用途向けに設計された専用の最適なハードウェアとソフトウェアが不可欠です。コネクテッドデバイスには高度な演算能力が要求され、シリコンレベルから専用の設計が行われなければなりません。これが、Axisがチップの独自開発に投資を続けている理由です。Axisは、ビデオ監視の現在と将来のニーズに対応できる集積回路、「システム・オン・チップ」の設計が可能です。最新の成果であるARTPEC-7は、セキュリティファーストの考え方から生まれたチップセットです。

機械学習と深層学習を利用した演算処理に基づく組み込みAIのコンセプトも、今後さらに広まっていくでしょう。AIに携わる人々の間では、AI、より正確に言うと機械学習と深層学習は、単なる流行語の域を超え、すでに日常的な現実であるため、今後、「刺激的な新しい」テクノロジーの話題として注目を集めることは少なくなり、ひょっとしてAIは失敗したのでは、と思う人が出てくるかもしれません。実際には目に見えないだけで、ほとんどの人が気が付かないところでAIが活用されるようになるでしょう。ただし、前述のように、対処すべき問題が一つあります。メモリや演算能力をそれほど必要としない、「より軽量の」新しい深層学習モデルの開発です。

 

3: 信頼されるエッジへ

信頼にはさまざまな形があります。私たちが送ったデータを企業が責任を持って収集し、利用するだろうという信頼。デバイスやデータがサイバー犯罪から保護されるという信頼。データそのものが正確で、テクノロジーそのものが設計どおりに動作するという信頼。エッジとは、こうした信頼が形作られたり、崩壊したりする場所になるでしょう。

サプライチェーン全体を通じて信頼が確保されることが、きわめて重要になるでしょう。ハードウェア自体にスパイチップが仕込まれている可能性は相対的に低いですが、製造後のファームウェアのアップグレードで、スパイ目的の「バックドア」をデバイスにインストールするのははるかに簡単です。

個人のプライバシーをめぐる問題について、世界中で議論が続けられるでしょう。プライバシーを守るために、動的匿名化、動的マスキングなどの技術をエッジで利用することもできますが、プライバシーに対する考え方や法規制は、国や地域によって異なります。セキュリティ業界の企業は、今後も引き続き、各国の法的枠組みを精査する必要があるでしょう。

デバイス内部でのデータ処理、解析が増えると、サイバーセキュリティがかつてないほど重要になります。おびただしい数の巧妙化したサイバー攻撃が増加の一途をたどる現状を目の当たりにしても、ごく基本的なファームウェアアップグレードさえ行っていない企業が少なくありません。システムを保護するには、ハードウェア、ソフトウェア、ユーザーに関する明確なポリシーに基づく個々のデバイスの管理と、監視ソリューション全体の総合的なライフサイクル管理の両方が必要です。

 

4: 規制: 使用例 vs テクノロジー

テクノロジーを規制すること、しかも、ほとんどの状況で正しく規制することは、不可能ではないにしても困難です。ただひとつ現実的と言えるのは、テクノロジーの使用例を規制することだけです。顔認識を例に挙げてみましょう。空港における諸手続きのスピードアップなど、ある種の顔認識の使用例は、何も問題がなく、望ましいとさえ言えます。ところが、市民や社会信用制度の監視を目的とした利用は、はるかに陰険で望ましくないと考えられます。まったく同じテクノロジーでも、使用例には大きな違いがあります。

適切な使用例に対する考え方と関連する法規制は、国によって異なります。EU一般データ保護規則 (GDPR) は最も顕著な例です。EU市民の個人情報の収集、保存、処理、利用における市民の権利保護を定めたGDPRは、地球上で最も厳しいデータ規制の1つです。これに比べると他の国々は規制がずっと緩く、EU以外の地域でオンラインサービスを提供する多くの企業が、GDPRコンプライアンスの不備を理由に、EU市民からのアクセスを遮断しています。

法規制はテクノロジーの進歩に歩調を合わせるのに苦心しているのが現状ですが、各国政府は今後も引き続き、国民と政府自身の利益となるような使用例の管理を模索するでしょう。セキュリティ業界が進むべきダイナミックに変化する環境において、ビジネス倫理が引き続き厳しく問われることになるでしょう。

5: ネットワークの多様性

規制の複雑さやプライバシーとサイバーセキュリティをめぐる懸念の直接的な結果として、過去20年にわたる完全に開かれたインターネットからの脱却が、現在起こりつつあります。データを送受信、解析、保存する手段の一つとして、インターネットとパブリッククラウドサービスは今後も健在とはいえ、ハイブリッドクラウドやプライベートクラウドが利用されるケースが増えています。特定のアプリケーション用のシステムが他の相互依存するシステムと限定的、直接的に接続する「スマートアイランド」が増加しています。

開放性からの脱却は望ましいことではない、と考える人もいますが、セキュリティやデータ保護に関連する主張には説得力があります。以前は、開放性やデータ共有によるメリットの一つがAIや機械学習の進歩であると考えられており、機械学習はコンピューターの学習に使われる膨大な量のデータに依存しているという共通認識がありましたが、現在では、進歩の意味するところが異なります。相対的に少ない量のデータを利用して、あらかじめ訓練されたネットワークモデルを特定の用途に合わせて作り替えることが可能になっているからです。たとえば、最近Axisが手掛けたあるプロジェクトでは、わずか7,000枚の写真サンプルを用いて交通モニタリングモデルを訓練した結果、事件検出の誤認警報が95%削減されました。

 

水晶玉をのぞき込むのは、どんな環境でも、百害あって一利なし。テクノロジー業界では、はっきりと愚かな行為と見なされるかもしれません。しかし、現在の顧客ニーズを満たす方法を探るには、すべての人々が今後、直面すると思われる機会やリスクを予見することが重要です。

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