小売アナリティクスで店舗の状況を把握

小売業界において、ビデオ監視は、映像を後で確認できるように録画し、損失を防止する目的で利用されてきました。もちろんこれは必要な基本機能であり、今でも広く利用されています。このような、店舗のあらゆる場所を撮影する監視ソリューションを利用して、さらに多くのことを達成できないでしょうか? 損失を防止するだけでなく、効率を高め、最終的に収益の増加を実現する。最新のアナリティクス技術を活用したインテリジェントソリューションであれば、それが可能です。

失われつつある実店舗の優位性

小売企業において、店舗への客足が遠のき、売上が低下する背景には、オンラインショッピングの存在、品揃えが少ない、顧客サービスに問題があるなど、様々な要因があります。小売企業は、店舗と資産を守る努力の一環として、損失防止を目的とする監視に多額の投資を行っており、盗難による損失は大きく減少する可能性があります。しかし、最も重要な資産である顧客については、まだ十分に考慮されていません。堅実に成功する店の秘訣は、カスタマーエクスペリエンスです。顧客に一流のサービスを提供すると、店舗にどのようなメリットが生じるでしょうか?

この質問への答えを、次の質問に答える形で示します。

オンラインショッピングという手段があるのに、なぜ顧客は実店舗を訪れるのか?

オンラインショッピングは非常に便利です。オンラインショップは、時間が空いたときにいつでも見て回ることができ、購入した商品は自宅まで届けられます。店舗に行くということは、オンラインショッピングの利便性を犠牲にしていると言えます。もちろん、オンラインショッピングにもマイナス面はあり、実店舗に行くことが望ましい場合もあります。2017年にTimeTrade State of Retailが行った調査によると、実店舗でのショッピングで最も気に入っているのは、商品を手に取り、確かめてから買うことができる点だと、買物客の72%が回答しています。しかし、レジでの精算で長く待たされたり、顧客サービスが行き届いていないと、店舗を訪れるのが苦痛になります。テクノロジーの進化に伴い、実店舗は優位性を失いつつあります。実店舗が今後も生き残るには、オンライン店舗に追い付かなければなりません。

顧客がオンラインショッピングよりも実店舗に行くことを選ぶ理由が必要です。それが、店舗でのエクスペリエンスです。特定の店舗やブランドと顧客との関係は、その大部分が、店舗を訪れた顧客が得られるエクスペリエンスによって決まります。そして、多くの場合、エクスペリエンスは小売企業がコントロールできる要素です。

そのため、店舗は、顧客の好みに適応する方法を見つけ出さなければなりません。Harvard Business Reviewに掲載された調査結果によると、カスタマーエクスペリエンスの改善の最善策は、より簡単に買い物ができるようにすることであり、店舗において、迅速なサービスとパーソナライズされたエクスペリエンスを実現することが重要です。ショッピングの際に、対面接客の利点を保ちつつ、オンラインショッピングの利便性を提供できることが最も理想的です。

これは、前述のTimeTradeの調査において、小売店でのショッピングで最も価値が高いものは? という問いに、「迅速なサービス」と回答した買物客が47%、「パーソナライズされたエクスペリエンス」が26%、「スマートなおすすめ」が17%という結果からも裏付けられます。

パーソナライズされたエクスペリエンスを最も重視するとの回答は26%に過ぎませんが、高度にパーソナライズされたエクスペリエンスが得られるのであれば、商品やサービスにより多く支払っても構わない、との回答は49%に上ります。この調査結果から、2つの選択肢を競争的に比較すると、迅速なサービスが小売店の最も重要な側面であることが読み取れます。しかし、2つの選択肢を切り離した場合、顧客が商品に対して喜んで支払う金額の観点から見ると、パーソナライズされたエクスペリエンスはかなり大きな比重を占めていることが分かります。ほぼ5分の1の顧客がスマートなおすすめに価値を見出している以上、これも考慮に入れるべき要素です。最終的に、カスタマーエクスペリエンスは売上を大きく左右します。

単一のスマートソリューションによって収集される小売インテリジェンスが、カスタマーエクスペリエンスを高め、スタッフの生産性を最適化し、店内キャンペーンの効果を高めます。

可能な限り最高のサービスを提供するには、まず、店の状況が何を物語っているかに耳を澄ませる必要があります。そこには知るべき多くの事柄があります。以下のような問題について考えると、店舗を最適化するにはどうすればよいか、答えが見えてくるでしょう。

  • 来店者の数は?
  • 来店した人はどこに向かっているか?
  • 待ち行列の長さや、対応までの所要時間を先行的に管理し、カスタマーエクスペリエンスを改善する方法は?
  • 店舗を訪れた人が顧客になる顧客転換率は?

これらの問題について考えることが、非効率の原因を取り除きつつ、一人一人のニーズを満たす店舗を作る際に役に立ちます。

さりげなく存在する小売インテリジェンス

ここでは、小売店で買い物をする顧客の典型的な行動に沿って、小売インテリジェンスが実際にどのような働きをするかを紹介します。

ここでは、架空の女性、タミー (38歳) が登場します。彼女は、数日後に出席予定の結婚式で着る服に合う靴を買うために来店しました。店内は比較的混んでいます。彼女は、靴売り場に向かう途中で男児用Tシャツの特売品コーナーが設けられているのを見かけました。広告を見ながら、息子にTシャツを買わなければならないことを思い出した彼女は、何枚か購入することにしました。続いて靴売り場に行くと、店員が挨拶してきました。すぐに背景のディスプレイに高級ハイヒールの広告が映し出され、それを目にした彼女は、友人が結婚式のために買った靴を思い出しました。最寄りの店員に近付いて、あのハイヒールで自分に合うサイズがあるかを尋ねました。店員が戻るのを待つ間、彼女はBGMを楽しみました。

インテリジェントなソリューションは、店舗が購買決定に正確に影響を与えるのに役立ちます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表示された広告は、客であるタミーの注意を引くという、マーケティングの果たすべき役割をきちんと果たしています。

店舗では、彼女の友達が靴を購入したことは知りませんでしたが、女性がハイヒールを買う確率は男性よりも高いことは認識しています。人口アナリティクスを通じて、タミーのおおよその年齢と女性であることは推定できたため、デジタルサイネージの表示が男性用ドレスシューズからタミーの年代の女性向けの商品広告に変わりました。これが最終的に、彼女の購入行動に影響を与えています。

店内で人が多く集まる場所を示すデータは、ヒートマップで得られます。店舗では、このデータを利用して、特定の通路の終端に特売品コーナーを設けました。タミーの注意を引くことができたのは、そのためです。各売場では適当な位置に店員が待機し、その時点で店にいる顧客の数に対応できる態勢になっています。タミーが直ぐに店員に声をかけることができたのは、そのためです。店内で流す音楽は、購買層に合った曲が選ばれています。これは、カスタマーエクスペリエンス、最終的には売上に好影響を与えます。実際、HUI ResearchとSoundtrack Your Brandが行った実地調査によると、無作為に選んだポピュラー音楽を流す場合と比較して、ブランドに合った音楽を流した場合は、全体的な売上に9.1%の差が出ることが判明しています。

店舗での買い物が終わりに近付き、タミーはレジに向かいました。すでに4人が並んでいる列に並ぼうとしたところで、追加のスタッフが到着し、別のレジが新たに開かれました。タミーは買い物を終え、買ったばかりの靴を手に、笑みを浮かべながら店を立ち去りました。

映像分析はスタッフが適切な手助けをできるようにするため、顧客はより早く商品を購入することができます。

 

タミーの購入行動に影響を与えたテクノロジーは、店内の別の場所の最適化も実現し、最終的にカスタマーエクスペリエンスの向上に役立っています。タミーのエクスペリエンスは満足度が高かったため、彼女が再び来店する可能性は高いでしょう。

店内で利用されているテクノロジーはタミーの購入行動に影響を与えただけでなく、彼女がすばやく、簡単に買い物ができる店舗の実現にも役立っています。

単一のソリューションで複数の目的に対応

満足できるエクスペリエンスをタミーにもたらしたテクノロジーについて、詳しく見ていきましょう。

人数カウンター: カメラの下を通過した人の数と方向をリアルタイムでカウントします。

待ち行列モニター: 事前に定義したエリア内 (待ち行列など) に並んでいる人数と、そのエリア内で発生する活動のレベルを追跡します。待ち行列が一定の長さを超えると、リアルタイムアラームを発生させます。

人口識別: 来店者を男女別に分類し、おおよその年齢を推定します。年齢、性別に基づくデジタルサイネージ広告のトリガーにも利用されます。

混雑状況推定: 来店者の平均滞在時間や人数など、店の混雑状況に関するデータを提供します。このデータを基に、人員を適切に配置することができます。事前に定義した混雑状況パラメーターに基づいてアラームを送信することもできます。

ネットワークオーディオソリューション: 店内にBGMを流し、随時または定時に店内放送を行うことができます。

ヒートマップ: 人が多く集まっている場所、まったくいない場所、渋滞している場所をすばやく特定し、通行パターンを経時的、またはリアルタイムに、目に見える形で把握できます。

デジタルサイネージ: たとえば、AXIS Demographic Identifierと統合して、来店した人の年齢と性別に基づいて、特定ターゲット向けのマーケティングメッセージを表示することができます。

このインテリジェントソリューションでは、個々の構成要素が連携して1つのプラットフォームとして動作し、店舗における顧客のエクスペリエンスを高めます。ほとんどの店舗で利用されている基本的な統計情報でも、現在の売上状況について情報が得られる可能性はありますが、効率性や非効率性に関する知見は得られません。

ここで、Axisのソリューションを導入している某小売企業で収集された、店舗運営にメリットをもたらす実際の統計情報の例を示します。この統計情報では、立地条件と顧客層が類似した2つの店舗を比較しています。当然のことながら、売上は店舗の業績を決定する要因の一つですが、顧客に関する詳しい知見を収集していないと、誤った判断につながるおそれがあります。

単純に売上(表中のSalesと書かれた行)で比較すると、先週、A店の売上はB店を30%近く上回っており、明らかに優良店舗です。A店は売買の数(同、Transactions)と平均購入金額(同、Average Purchase Value)がB店よりも多く、売買1回あたりの品目数(同、Items/Transaction)がやや少ないだけです。これら4つのKPI (主要業績評価指数) に注目すると、A店の独走状態です。両方の店舗に導入されている小売ビデオアナリティクスによるデータ (同、Foot Traffic) を分析すると、A店の来店者数は1万5,953人で、B店の5,276人と比較して3倍も多いことが分かります。

このデータは、本当は何を物語っているのでしょうか?

意外なことに、来店して実際に買い物をした人の割合を示す顧客転換率(同、Conversion Rate)を比較すると、A店はB店をかなり下回っていることがこのデータから読み取れます。店に立ち寄った人を顧客に変えるという意味では、B店の方がはるかに優れています。

経営者の立場では、B店のスタッフやマネージャーがどのように正しく行動しているかを見極め、同じ戦略をA店に応用して、売上の増大を図ることができます。これは、すべての来店者に最適なカスタマーエクスペリエンスを提供する契機になります。他の指標を分析すると、B店を訪問する人の滞在時間(同、Average Visit Time)はA店よりも長く、列に並んで待っている人数(同、Average Queue Length)は少ないことが分かります。この事実から、さらに分析が必要な別の問題が浮かび上がります。2つの店舗で何が起こっているのか、収益性を高めるために適用すべき最良のモデルは何なのか、といった問題です。カスタマーエクスペリエンスに関しては、行列の平均待ち時間だけでも相当な違いがあります。

アナリティクスを通じて顧客を理解する

実店舗での買い物には、うんざりする気持ちとストレスが付きまといます。サービスが行き届かない店舗や、長い待ち行列に並ばなければならない店舗では特にそうです。そのような事態を防ぐため、店舗では、常に顧客のニーズや好みを最優先で考え、顧客が必要な商品を簡単に見つけられるようにすること。親しみやすく、知識が豊富なスタッフを配置し、顧客のエクスペリエンスを高めること。顧客サービスの全体的な待ち時間を短縮することが必要です。

この対策を取らないと、競合店に顧客が吸い込まれていくのを見続け、さらには、顧客がオンラインショッピングに流れるのを見続けることになるかもしれません。