車載ネットワークカメラの生誕10周年を祝う

1996年に世界初のネットワークカメラが発表されて以来、このテクノロジーは大きく発展しました。ネットワークカメラは、今ではさまざまな用途に利用され、対象となる業種は広がる一方です。交通産業は当初はネットワークカメラへの投資に消極的でしたが、今日では確固たる地位を築いている市場の一つです。

10年前に車両に初めて設置されて以来、ネットワークカメラは、交通機関の安全とセキュリティになくてはならない存在になりました。車載ネットワークカメラに統合できる各種テクノロジーによって、人数計測、顔認識、セキュリティ、運転手の行動の改善など、ソリューションの範囲も広がっています。

車載カメラ技術の進化

車載カメラを開発する際、設置先である車両の寿命の長さは重要な考慮事項の一つです。鉄道車両は最長40年にもわたって運用される場合が少なくありませんが、カメラは7~8年ごとに交換されるため、簡単に交換できることが重要です。従来のカメラと同じ形状の新しいカメラを用意し、テクノロジーが新しくなっても、古い鉄道車両内にきちんと設置できるようにする必要があります。

車載カメラの有用性が固定カメラに肩を並べるまでには、いくつもの難題を克服する必要がありました。現在、車載カメラには多くの最先端技術が取り入れられており、画像処理能力と同様に、機械部品の堅牢性や信頼性も年々向上しています。光の悪条件だけでなく、容量が限られた車載ストレージやデータ送信能力の問題に対処する新しい機能が追加されています。また、さまざまな追加機能によって、カスタマーエクスペリエンスの向上を実現しています。

光の悪条件

車両の移動に伴い、その環境は、明るい日光の下から真っ暗なトンネル内や悪天候まで、刻々と変化します。人間の眼は、非常に暗い場所から非常に明るい場所に、あるいは、非常に明るい場所から非常に暗い場所に移動すると、新しい光条件に慣れるのにしばらく時間がかかります。この影響は、カメラにとっても同じです。

たとえば、バスや列車が暗いトンネルから明るい日光の下に出た場合、光の変化にすばやく順応し、フォレンジック分析に必要なディテールがすべて確保され、視界中の最も暗い部分がはっきりと見え、明るい部分が露出過剰にならないようにする必要があります。このような悪条件に対処するには、車載カメラがワイドダイナミックレンジ (WDR) などの高度な画像処理技術を搭載している必要があります。市場にはWDRソリューションが数多く出回っています。しかし、容易に想像できますが、良い製品、悪い製品が入り交じっているのが実態です。ローエンドのソリューションでは、画像に多くの異常が見られ、使いやすさが大幅に損なわれます。

交通機関ならではの課題として、長距離移動する交通機関の場合、バスでも列車でも、夜間走行時に乗客が眠れるよう、照明を消す場合が少なくありません。乗客に快適さを提供するには欠かせないことですが、犯罪活動に絶好の時間にもなります。

この問題に対処するには、暗闇でも多くの物体を見分ける能力を搭載した車載カメラが必要です。高度な画像処理能力を備え、照度が非常に低い場合でも実物と同じ色を再現しながら対象物を写し出すカメラが存在します。フォレンジック分析で必要な、このようなディテールは、犯罪訴追に不可欠であり、犯行の抑止効果を発揮し、乗客の安全性を高める上で重要です。

少ない記憶容量で多くのディテールを撮影

旧来のアナログシステムでは、ビデオを圧縮することができず、これが大きな欠点でした。車載ストレージの空き容量が不足すると、新しい映像を保存するため、撮影された映像がすぐに削除されていました。これでは、カメラの有用性が明らかに損なわれます。この問題に対処するため、メーカー各社は、画像を圧縮して貴重な記憶域を節約する方法を検討しました。映像の品質や有用性を犠牲にせずにこの目標を達成するため、高性能な新しいコーデックが導入され、ビデオの全体的な品質を損なうことなく、必要な記憶容量を大幅に削減することができました。

このような高性能なコーデックの最も優れた特長は、撮影シーン中の、静止した背景など、重要度の低いディテールのみを圧縮し、人物や動く車体など、重要と思われるそれ以外のすべてのディテールを維持できることです。このような高性能なコーデックを利用すると、列車やバスの限られた車載ストレージに重要な情報だけが記録されます。無人の鉄道車両などを撮影する場合、必要なストレージ容量はほぼゼロになります。乗客と車両を撮影する場合、必要なストレージ容量は最小限でも、目的の被写体を最大限のディテールで撮影することができます。

ビデオに音声を追加

音声機能を接続した車載カメラは、公共交通機関に高度な付加価値をもたらします。音声を追加することで、事件の記録を画像と音声の両方で残すことができ、カメラの有用性が高まります。たとえば、殺気立ったラッシュアワーのバスを考えてみましょう。映像のみのカメラの場合、2人の乗客が口論しているのは分かっても、何を言っているのかは分かりません。音声機能を接続し、外部マイクを適切な場所に設置すれば、口論の現場を見るだけでなく、聞くこともできます。事件発生後のフォレンジック調査に非常に役立つツールです。

アナリティクスの価値

テクノロジーの進歩によって車載カメラの性能が向上する一方で、カメラの有用性に変革をもたらす先進的なソフトウェアとの統合が行われるようになりました。現在、車載ネットワークカメラはアナリティクスアプリケーションと統合することができ、乗客の人数や公共交通機関の利用に関する貴重なデータを利用して、サービスや人員配置を最適化することができます。

交通部門におけるこの種のソフトウェアの応用先は幅広く、特に、セキュリティ機能の強化は根強い需要があります。近年、警察当局は、公共交通機関に放置される手荷物や不審物への懸念を強めています。放置された手荷物を認識するソフトウェアをカメラに搭載することができ、警察や保安当局者が不審物を検知し、すばやく対応するのに役立っています。

セキュリティ機能はそれだけではありません。犯行後の犯罪者が、捕まらないように群衆に紛れ、公共交通機関を利用して現場から逃走を試みるケースが多いですが、列車やバスの車載カメラに搭載された顔認識ソフトウェアを利用して、犯罪者が遠くに逃走する前に発見し、逮捕することができます。

乗客と運転手の安全

残念ながら、運転手が悲惨な事故につながるミスを犯す場合があります。公共交通機関の安全性を高めるため、運転手の行動を監視するアプリケーションを搭載した車載カメラが一般化しています。

加速度計を備えたモバイル監視システムを搭載し、急ブレーキを感知するたびに録画を行うことができます。これは、急ブレーキが不適切な運転によるものか、運行ルートの混雑が原因なのかの判別に役立ちます。事故発生後の調査においては、問題のシーンの時系列に沿った確認を非常に簡単に行うことができ、事故の原因が運転手の過失によるものか、運転手が制御できない外的状況によるものかをすばやく判断できます。また、音声機能を接続した車載カメラを使用して、クラクションを鳴らした、特定のボタンを押した、大声を検知したなどの時点で録画を開始し、事件の瞬間の映像と音声を確保することができます。

嘆かわしいことですが、今日の社会では虚偽の保険請求が横行しており、金銭的利益のために事故を偽装する人が後を絶ちません。車外カメラを利用して、事故の原因になった本当の犯人を特定し、疑いの余地なく法的責任を問うことができます。偽りの損害賠償請求から交通機関を守り、金銭的損失を防止するのに役立ちます。

有益な運転補助手段になるということが、車外カメラのもう一つの利点です。バスを巧みに動かすのは、経験豊富な運転手でも容易ではありません。車外がよく見えない状態でバックする場合はなおさらです。ダッシュボードに表示画面を備えた車外カメラは、運転手を支援するデジタルミラーの役割を果たします。周囲がよく見えるようになり、安全性が高まり、接触事故による車体の修理費用の発生を未然に防ぐことができます。この技術は、鉄道車両の接続を迅速化する目的でも利用されています。

今後の車載カメラ

単純なビデオ撮影デバイスとして産声を上げた車載カメラですが、今では、交通機関の安全とセキュリティに不可欠な存在になっています。より強力になった新型のカメラは、急速な光の変化にスピーディに順応し、従来と比較するとほんの少量のストレージ容量で、より多くのディテールを撮影することができます。スマートアナリティクスや新しいアプリケーションを組み合わせて、不審な手荷物や人物を検知することもできます。

モバイル監視は刺激的な新時代を迎えています。現在、そして将来の車載カメラは、セキュリティの用途をはるかに超えた先進的なテクノロジーを統合することができ、業務効率やカスタマーエクスペリエンスの向上につながるデータを提供します。車載ビデオシステムを利用して、列車を待つ通勤客に最も空いている車両を自動的に案内したいと希望する鉄道会社もあります。

モバイル車載カメラをネットワークを介してさまざまなデバイスと接続すると、有用性が大幅に向上します。マシンラーニング技術と連携して、著しく改善されたサービスを提供する車載カメラは、今後のスマートシティの重要な構成要素になるでしょう。言うまでもないことですが、こうした可能性には相応の責任が伴います。明日の世界では、サイバーセキュリティはかつてないほど重要になります。コネクテッドデバイスから構成される大規模なネットワークは、隙のないセキュリティ対策を施し、市民のプライバシーと企業のデータを守ることが要求されます。

テクノロジーの進歩が非常に速いため、今後10年間に車載カメラに搭載される機能をすべて予測するのは困難ですが、過去10年間に見られた進歩と需要の高まりを考えると、車載カメラが私達のコネクテッドな未来の重要な一部になることは間違いありません。

車載向けソリューション